広告業界では、よく「ターゲット」という言葉を使う。これは、誰に向かって売りたいのか。どんな人を対象にして、商品を開発したのか。商品を消費する人を想定して、それをターゲットと呼んで、スタッフみんなが「売りたい対象者」のイメージを共有する。
いちばん簡単な想定は、年齢とか性別とかでターゲットを決める。たとえば、40代、女性、八王子在住、主婦、短大卒、夫はサラリーマンで年収は600万円、小学生の子ども2人という感じ。どうでしょうか? どんな女性をイメージすることができますか? 身の回りの女性を思い浮かべて、あぁ、あそこの奥さん、40代主婦だな、カラオケが好きで外食が好きで、いつも旦那のことぼやいている。するとスタッフのひとりがこう言う。うちのカミサンはまんまターゲットだけど、家庭料理が好きで子どもの教育には熱心だけど、社交的ではないし、テレビばかり見てるよ。というわけで、スタッフミーティングでは、ターゲットのイメージをまったく共有できない事態が起こる。
ターゲットを想定するとき、性別、年齢、居住地域、所得、職業、学歴、家族構成など人口統計学的な属性データで捉える手法を、マーケッターはデモグラフィック分析と呼ぶ。成人式を迎える人、七五三の子どもを持つ親など、この手法は今でも、もちろん有効な場面がたくさんある。
しかし、かたや男性を狙ったビッグスクーターが女性に受けたり、年収1000万円の高額所得者が実は100円ショップのファンだったり、今までのデモグラフィック分析によるターゲット分析だけでは、消費者のイメージがつかみきれなくなっている。
そこで、サイコグラフィック分析である。ひと昔前、感性マーケティングという名前だったような気がするが、最近のトレンドは、これ。デモグラフィックとの対比で語ることができるので、重宝な用語ではある。
以下、日経ネットマーケティングからの引用。
サイコグラフィック
psychographic心理学的属性。具体的には、ライフスタイル、好み、価値観、信念(宗教)、購買意向・動機など。市場が細分化したことから、生まれ育った環境や生活体験などによって規定される趣味・し好・関心・興味などのより心理的な要因を基に分析を行うマーケティング手法が用られるようになっている。
雑誌とかファッションとかの広告分野では、特に有効と思われる。ちょいと古いが「ちょいワルおやじ」とか、個人的に好きではないが「LOHAS(ロハス)」とか。
先ほどの主婦の例であれば、サイコグラフィック分析によるターゲットは、こうなる。20歳前後で結婚したため、失われた青春を、40歳で取り戻そうと、多趣味になり、遊ぶことにブレーキが効かなくなった主婦たち。あるいは、自己主張は苦手だが、愛情の表現手段としてお料理や子どもの教育に過剰に熱心になる、引きこもり気味の主婦たち。どっちも、イヤだなぁ(笑)。
てなわけで、ターゲットというのを、我々はよく口にするわけだが、価値観の多様化、ライフスタイルの多彩化(造語)という、おなじみの時代潮流がここでも渦巻いている。サイコグラフィックを意識しなくては、ターゲットのイメージをスタッフと共有できない。マーケッターは、ほんとに、次から次へとよくぞ新たな言葉を生み出すものだと感心する。
僕らコピーライターは、この用語を知らなくても、いいんだけどね。マーケットを直観的に把握して、フレーズを生み出すのが仕事だから。実際、キャッチフレーズを考えるときは、ターゲットの性格を含めて、けっこう具体的な相手のイメージができている。いまさらながらのサイコグラフィック分析だけれど、広告づくりの現場で、マーケッティング的な視点や発想は、クライアントを説得する武器にはなる。さらに一歩進めて、感性を数値化して、リアルな経営戦略にフィードバックするような試みが、最近、フランチャイズ系の企業では行われている。また次の機会に、この辺のマーケティング事情を記事にしようと思う。
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