カメラマンはどこへ向かうのか

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かつて僕は大手カメラメーカーN社のPR誌編集(隔月発行)を2年間やっていた。
カメラのど素人だった僕は、そのとき、写真や撮影の基本を教わった。
「一眼レフを使え」とカメラを渡され、50ミリの標準レンズで撮影したり、
著名なカメラマンの写真集を見たり、ギャラリーに通ったり、作家の取材もした。
現像代ふくめて、経費で勉強できたのだから、ありがたい話だ。
だが、その後、家族旅行や七五三の撮影はしたけれど、カメラにハマることはなかった。
ふたたび写真と接近するようになったのは、広告企画のフリーとして独立してからだ。
ライターとして取材のついでに人物も撮影してほしい…という依頼がくるのだ。
文章と撮影がワンパッケージ。つまり、ぶっちゃけ、低予算の仕事。
一昔前なら、カメラマンと同行取材したであろう仕事も、ひとりでやるハメになった。

このような依頼の背景には、ご承知のとおり急激なカメラ・デジタル化の波がある。
以前のフィルムによる写真撮影は現像されるまで、きちんと写ってるかどうか確認できず、
仮にポラロイド確認できたとしても、実際に印刷物に使う「写真」はフィルムの中に眠っている。
ライターあるいはディレクターとしての僕は、クライアントとともに、
その最終成果物「写真」の仕上がりをカメラマンにすべて委ねるしかない。
カメラマンは、プロであるから失敗はゆるされない。仕上がりをイメージしてシャッターを切る。
撮影後、カメラマンはフィルムをラボに出し、意気揚々とポジや紙焼きを持ってくる。
その現像が上がってくるまで、気が小さい僕は結構どきどきしていた。
マウントされたポジをルーペで確認し、その都度、ホッと胸をなでおろした。
当時のカメラマンたちは、その報酬が今とは比べ物にならないほど高く、
またアングルや人物の表情などディレクションの無理難題にも、プロの技を発揮してくれた。
優秀なカメラマンと仕事が出来ると、ほんとうに素直に気持ちが上がった。
ところが、…である。
カメラのデジタル化によって、写真をとりまく事情が一変した。
デジタルカメラは、その場で最終の写真イメージを確認できる。
アングルや露出等でちょっと不満があれば、修正して再撮影すればいい。
ピントが甘いと思ったら、三脚を使って、かっちりと再撮影すればいい。
ディレクターが描く写真イメージや、クライアントへの画像確認も
その場でディスプレイに映し出せば、すぐOKがとれるのだ。
つまり、プロ・アマ問わず、撮影で失敗する確率がほぼゼロに近くなった。
カメラのデジタル化が、プロ・カメラマンの技術領域を侵食したのだ。

そんな時代、ましてやローカルのライターに撮影の依頼は珍しくない。
先に述べたように、ニーズとして一番多いのは、取材時の人物撮影。
人物の背景をぼかすためには、いいレンズが欲しくなる。
さらに、社屋や商品も撮影してほしいと依頼される。
すると、広角ズームレンズ、フラッシュや三脚、アンブレラなども欲しくなる。
湖上のカヌー撮影を頼まれれば、望遠レンズが欲しくなる。
だが、プロ・カメラマンが使うような高価な機材を揃えては、元がとれない。
だから、プロから見れば、鼻で笑われるようなチープな機材ばかり。
もともとカメラマンから仕事を奪おうなんて気持ちはさらさら無い。
予算があれば、すぐに専業のプロ・カメラマンに依頼したい。
技術面でも装備面でも、プロには絶対かなうはずがない。

しかし、いまの時代。YouTube界隈を見渡せば、
皆さん、ちょっと前までカメラ素人なのに、
一足飛びにカメラを使いこなし、まるでプロのような存在感。
昨今はカメラを学ぼうとすれば、いくらでも情報が転がっているし、
マニュアルの技術を知らなくても、オートできれいな映像や画像が撮影できる。
ここでもテクノロジーの進化がプロとアマの境界を崩しつつあるのだ。
さらに彼らは、ディレクターであり、主演であり、編集者であり、
ひとりで何役もこなすのが当たり前の世界に生きている。
僕のようなオジサン世代は、分業が当たり前だったのだが、
いまはひとりで全部をこなすのがカッコいい。専門性が失われつつあるとも言える。

グラフィックデザインの世界も、かつてはデザインと版下と分業体制だった。
版下に色指定をして、最終的な色彩の仕上がりは、印刷の色校正でなければ確認できなかった。
これ、いまの若い人には想像できないだろうな。CMYKの色指定をするという魔法のような技。
デザイナーの頭の中にだけ、色彩の最終イメージがあったのだよ。まさに職人芸である。
いまはパソコンのなかで、ほとんどすべてが完結。印刷とディスプレイの誤差はあるにしろ、
ディレクターもクライアントも仕上げのイメージを早い段階で共有できるようになっている。

うむむ。これ書いていて、ふと、若い人には何を言ってるのか、
まったく、わけがわからんだろうな、と思った。説明が難しい。
昔の現場を知らなければ、カメラにしろデザインにしろ、
人間の技がもっと重要だったということが、伝わらないだろうな。
昔は良かった、と懐古趣味で書いているのではないよ。
昔に比べて、テクノロジーが人間の技をサポートしてくれるから。
これからのクリエイターは自らの技よりも発想やセンスがすごく重要だ。
ただ、ある一定のレベルを超えるには、やはり専門性が大事。
器用な総合力のある人材はやがて飽きられて、
これから専門的な技を磨こうとする若者が増えてくるのではないかと思う。

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