とっても良い映画館がある。長野の権堂というアーケードの真ん中あたりの相生座キネマだ。採算ベースで考えれば割が合わないのではないかと思うような地味な作品や自主制作、問題作が多くかけられ、なんか映画が好きな人のパッションを感じさせてくれる。長野市で決して無くなってほしくない施設のひとつだ。

映画「アイヌモシリ」は僕の数少ない友人のひとりが先に観ていて「いいよ」と勧められていた。上映期間は2週間しかない。最終日の前日にようやく時間がとれて相生座に観に出かけた。邦画なので字幕を追う必要がないので前列から2番めに陣取った。後ろを振り向くと観客は5人。平日の夕方であるし、それほどマスコミで喧伝されてもいないし、有名俳優も出ないし、そんなものだと思うが映画館経営がちと心配ではある。

作品には主演の少年はじめアイヌの血をひく人たちがたくさん出演している。僕はここ数年縄文時代に対する憧れが強くあって、アイヌ文化にも興味があって、友人に勧められたせいもあるが、これは観なければと思ったのだ。あらすじがどうだとか映画監督が誰だとか事前情報はまったく入れずに、まっさらな気持ちでスクリーンに相対した。

観終わった後の感想は、これはアイヌを通して我々に猛省を促している映画だなぁ。少年の成長物語という軸とアイヌの文化伝統という長い時間軸、さらに現代に生きる人間としてのしがらみや矛盾などもちょっとしたドキュメンタリー風のシーンに盛り込まれている。この映画は計算されつくしてて、すごい監督だと素直に思う。若い監督で2作目だというから、これから眼が離せない。

印象的だったのは主役の少年の眼だ。普通の素人なんだけど、たぶん素のなかからそういう眼を見逃さずにフィルムに収めたんだろう。それと、ほかの出演者もほぼ全員素人なのでウソくささがないのもいい。一瞬、ドキュメンタリーかなと思わせる場面があったりするが、それでもドラマはドラマなのだ。イオマンテというアイヌ伝統の儀式を復活させようという流れでドラマは淡々と進行していく。アイヌの血をひくといわれる出演者たち。彼ら彼女らを見ているとすごく親近感を覚えるのだった。自分のルーツは岩手県にあるけれど、もっと昔は縄文人だったように勝手に自覚していて、さらに人間の美意識というものは何世代にもわたって受け継がれるものだという一般論を踏まえると……僕は、出演者の何人かの男女を美しい顔だと感じた。

さてドラマに話を戻そう。あの世とこの世をつなぐもの。あの世とは、死後の世界であり神のいる天国でありルーツであり、そういう異世界とのつながりを求めようとする人と、現代のリアルに合わせるべきだという人。現代社会で生きている限り、異世界の存在は非合理で邪魔なもので、我々はそういう闇の部分を抹殺してきてしまったのではないか。そういう事実に、正面から対峙させてくれる。この映画はアイヌのアイデンティティをひとつのテーマにしているが、実は、少年を主役にしたことで物語は普遍性を帯び、観客に対してアイデンティティを見直せと迫ってくる。監督は、かなりのしたたかさを持っていると思った。

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