懇意にしている業界人から、この映画を観るよう強く勧められた。
森達也監督が佐村河内守さんのその後を追ったドキュメンタリー作品、FAKEだ。
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マスコミの在り方について、考えさせられるよ、と言われたが…一部、テレビ局のプロデューサたちが出演交渉で
大真面目にバラエティ番組の誠実さを訴えているシーンは笑えたが、マスコミ批判の映画としては中途半端な出来のように感じた。
マスコミの卑劣さは多少浮き彫りになったものの、ゴシップをあつかうマスコミなんて所詮こんなものでしょう、という程度。
社会派のドキュメンタリーを期待したら、がっかりするだろう。
それよりも興味深かったのは、森監督の映画の作り方だ。
ほかの森作品を観ていないので比べられないが、森監督自身が重要なキャストを演じているのが、この作品のいちばんスゴイところだと思う。
助演としての森監督が主演の佐村河内氏を巧妙に誘導している。
森監督はそのセリフによって、ドラマを強引に動かしていくのだ。
主演の彼は、テレビで報道されたときにも感じたが、聴覚障害というよりも、むしろ人格障害があるように感じた。
精神科医ではないから勝手な判断だが、自己愛性もしくは演技性の人格障害。
演技しながら、それに没頭して、その物語に入り込み、自らを騙してしまえる。
この映画に登場するときは、事件前の自信満々の作曲家の演技ではなく、違う角度から、自らを被害者と信じて、演じ続けているのが生々しい迫力だ。
さらに輪をかけて…森監督がこれはもう素晴らしい役者なのだ。
監督はセリフの力によって、夫婦愛や音楽家再生の物語をつくろうと仕掛ける。
FAKEとは、ねつ造する、でっちあげる、という意味。
主演者のFAKEに入り込み、監督がさらにFAKEを仕掛ける。
それに対して、主演の彼と妻は、これも想定通り上手に答えてくれる。
人は、普通の生活のなかで、普通に人を信じたいと思っている。
自分を騙そうと近づく人間なんて一握りだし、めったにいないはず。
たまたまそういう奴に遭遇したら、運が悪いか、もしくは自分の甘さを責めるか。
とりあえず、人はFAKEを他人事と思って暮らしているのではなかろうか。
だが、この映画はFAKEが生まれてくる瞬間を捉えようとしている。
森監督は確信犯だ。守さんは、ある意味、おぼこい。
監督は、人間の善を信じたい志向性に対して、
「それでいいの?ほんとうに?」と向き合わせてくれる。
我々の自省を促す映画ということで、ま、おすすめかな。
あんまり感動はしないけど、ね。
ちょっと人間不信になるけど、ね(笑)。
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