「自分探しの呼吸法」を読んだ

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 この本は、健康美容関連の書棚に居心地悪そうに並んでいた。帯には「身体アプローチで読み解くあなた自身の物語」と書かれている。目次を見れば、単なる呼吸法のテクニカルな手引き書ではなさそうだ。興味の赴くまま、買って読んでみた。
 ストレスの多い現代は、人間から原始的な身体感覚が失われつつあり、それに起因する心や体の病いがたくさん存在しているという。著者の高橋実氏は、吉祥寺で「からだはうす」という名の整体治療院を約30年も開業しており、その臨床現場から得た体験的な知識をベースに、古代神話や東洋思想、トランスパーソナル心理学、日本的霊性の領域まで自らの考えを羽ばたかせ、縦横無尽に深化させ、それを文章として定着させようとする。論理のなかに、詩的なインスピレーションが混じり、一瞬、ハッとさせられる。この「間」によって読者は、知的な好奇心を触発され、合理性の呪縛から解放される。独特の癖がある、おもしろい文章だ。
 呼吸法については、浄化の呼吸法と活性化の呼吸法が紹介されている。前者は、細かくその方法まで紹介されているが、これは健康体操のように簡単にできるものではなく、適切な指導者について実践すべきものであろう。後者は、具体的な方法までは紹介されていない。そのため、やや、わかりにくい。わかるのは、変性意識に踏み込む呼吸法であること。著者は日本におけるトランスパーソナル心理学の黎明期から、この分野についての造詣が深く、ワークショップを定期的に開催している。それだけに、この呼吸法による変性意識の体験に関しては、誤解を招かないように、ことさら慎重に筆を進めている。非日常的なビジョンを見たとしても、それ自体を特別視するのは危険である。あくまでも現実的な日常世界に照合させていくことが重要であるという。身体を通して心を見つめ、心から身体を見つめ、人間の深層に横たわるひとりひとりの物語を再構築しようとする。その著者の姿勢に、誠実さを感じた。
 一気に最後まで読んでしまったが、内容は充実しており、久しぶりに満腹感を味わった。様々なアイデアが詰まっていて、本来なら、数冊の単行本として上梓すべきだったのではないか。読んで、損はない。一回読んだだけでは消化不良なので、これからもう一度、再読しようと思っている。

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