テレビドラマ「仁」は、初回から観て、その丁寧な作り方に好感が持てた。主人公の仁は、自分の恋人を手術して失敗したことがトラウマとなっている。医者としてのプライドをなくしかけていた彼が、江戸時代にタイムスリップして、緒方洪庵や坂本竜馬、また恋人にそっくりの花魁との出会いを通して、さまざまな葛藤のなかで、人間的に成長していくというドラマだ。初回からぐいぐいと引き込まれ、一回だけ、見逃したけれど、ほとんど毎週楽しみにしてきた。
まず幕末という時代設定が良い。イントロの過去と現在の写真がオーバーラップするシーンは素敵だ。江戸の街並みのセットやCGも、なかなか丁寧に作られている。ペリーが来航したり、時代が変わろうとしている中でも、庶民はたくましく生活していて、武家は武家でまだ誇りをもって生きている。そういう人々の凛とした倫理観が基調に流れており、それをドラマの中に描き出そうとしているのを感じた。
登場人物たちは、これほど的を得たキャスティングも珍しいのではないか。武田鉄矢の緒方洪庵は、まさに長髪のまま、はまり役。中谷美紀の花魁は、きりりと嫌らしさのない流し目がとっても魅力的で、火消しの中村敦夫はほんとうに江戸にいたのではないかという存在感。咲の綾瀬はるかは、清楚で情熱的な女性を見事に演じきり、これは彼女の代表作になるかもしれない予感。もちろん主人公の南方仁、大沢 たかおは、優柔不断な自分と戦いながら揺れ動く心理を安定感のある演技力で表現してくれた。シナリオもよし、演出もよし、いやぁ、久々にテレビドラマにはまった。
最終回は、僕としては、とっても納得のいくものであった。なぜ、タイムスリップしたのか、という謎をそのまま残して、あえて謎解きを避けたのがすばらしい。拍子抜けした人も多いと思うけど、僕としては、この終わり方で満足。過去を引きずるなよ、未来を思い煩うなよ。いま、この目の前にある現実から目を背けず、しっかりと立ち向かって生きていこうよ。SF的な仕掛けのなかで、そのメッセージが構図としてリアリティを持ってくる。人生の多様性を万華鏡や水のたとえ話しでたたみ掛けるようにヒロインたちに語らせ、ぎりぎりのところで説教臭さを払拭している。そして何よりも、花魁を手術で助けることができたというその一事が、主人公がタイムスリップしてきた理由であろう。腫瘍の赤ちゃん人形に、なんらかの理屈をつけるのは、野暮というものでありんす。
人生は、このドラマのように、やり直しはできない。でも、失敗した自分を悲劇の主人公にするなよ。失敗するかも知れない自分を怖れるなよ。もっと、たくましく生きる方法はあるはずなんだ。
このドラマから僕は、ちょこっと勇気をもらいました。よし、明日から、がんばるぞっと。
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