紫陽花 【rough story 32】

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いつも、うちの庭には、紫陽花があった。
ちょうど今頃、梅雨の季節になると、
外へ遊びに行けず、うらめしく眺めた
庭先の紫陽花の記憶がよみがえってくる。

紫陽花は、母が好きな花だ。

私は、成人して実家を離れたが、
年老いた親の面倒を見てくれた
兄の家の庭にも、やはり、
いつからか、紫陽花が咲いていた。

出棺の朝、前夜少し、雨が降ったのだろうか。
濡れそぼった紫陽花たち、
緑の葉には、滴が点々と散っていた。
天国への旅支度を終えた母、その顔は安らかだった。
もう、寝られないほどの痛みで、苦しむことはないんだ。
私は、母の死化粧をじっと見届けた。
きっと、この季節を、彼女自身が選んだのだ。
「思うようにはいかない人生
 最後くらい、じぶんで選んだって…」
声を聞いたような気がした。

紫陽花は、母が好きな花だった。

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