広告制作の仕事は、広告したい人と生活者との橋渡しをすること。言いたいことをしっかりと伝えたい人たちに伝えること。そのために言葉を考えたり、ビジュアルをつくったり、メディアを検討したり…どのようにすれば、グッドウィルを獲得したり、モノが売れたり、評判が広がったり…そんなことを毎日毎日考えているわけです。広告業界に棲息する我々はいわゆるコミュニケーションのプロと呼ばれたりしています。
広告クリエイターというのは、だから、コミュニケーション能力が高い…はずなのですが、現実には、意外とコミュニケーションが下手な人が多いような気がします。デザイナーになる方は、幼少の頃から絵が得意でやや引きこもりがちで社交的ではない職人気質。コピーライターは、理論武装が得意でオレは頭がいいんだぞという自信家で他人の言うことに耳をかさないひとりよがり。ディレクターとか営業職の人たちは、人と会って話すのが仕事の主要な部分だから、さすがに、コミュニケーション能力には長けているけど、この業界、性格的にどこか破綻しているような人たちが多いとは思います。自戒の念を込めて…
芸術家であればコミュニケーションが下手であっても、それは個性として許されるわけですが、広告クリエイターは芸術家ではありません。広告制作はひとりでは成り立たない世界です。まずクライアントがいて、代理店がいて、媒体社があって、制作者もプランナー、ディレクター、コピーライター、デザイナー、カメラマン、スタイリスト、オペレータなどなど、みんなの共同作業によって、一本の広告ができあがっていくわけですね。そのプロセスでは、いろいろなぶつかり合いがあって当然です。自分の意見が通らないのは日常茶飯事。あっちこっちに意見が右往左往して、みんなの共同幻想の焦点が徐々にあっていくわけです。
このようなプロセスを楽しめるかどうか。人の声に耳を傾けて、そして柔軟に対応していけるかどうか。
話すのが下手でも、多少の自信家であっても、性格が若干破綻していても、この柔軟さがあれば、なんとか、業界でやっていける。他人とぶつかってもめげずに、前を向いて仕事に取組める。そんな素直な感性が、広告クリエイターのコミュニケーション能力なんじゃないかな。若い人を見ていて、そんなことを思う、中年の広告クリエイターでした。
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