ぼくが20歳の頃、6歳年上の夢枕獏さんは奇想天外というSF雑誌からメジャーデビューした。筒井康隆に見出されて、同人誌に掲載されたものが奇想天外に転載されたのだ。それから立て続けにオリジナル書き下ろしの短編小説が掲載された。当初は、メルヘンタッチの作風が多かったように思う。続いて、新井素子、谷甲州、牧野修、山本弘がこの雑誌からデビューした。当時の奇想天外は、老舗のSFマガジンよりも優れた新人を輩出させることに力を入れていた。
ぼくは縁あって、その編集部に出入りしていたが、大学卒業後の進路を編集長に告げたところ、こう言われた。「彼(夢枕獏)は、凄いよ。覚悟が違う。小説を書くことを本気で仕事にしようとしている。だから、バイトしかしないと決めている。どこかに就職しようなんて気持ちなんて、サラサラないんだ。」
面識はなかったけど、大柄でエネルギッシュな青年の顔が浮かんだ。凄いなと正直に思った。それから、彼は数々の小説を書きつづけ、今や誰もが知っている流行作家になった。夢枕獏という名前を知らなくても、安倍晴明を主人公にした陰陽師シリーズの作者と言えばわかるだろうか。
この正月休みに読もうと図書館から10冊ほど借りてきたのだが、その中に夢枕獏の「書く技術」という本があった。カルチャーセンターでの講義をまとめた話し言葉の文体だからスラスラと楽しく読み終えた。小説を書くに当たっての彼の姿勢や人生観の一端が伺えて面白い。ぼく的に、ピンと来た言葉があった。
「やる気」があるから「やる」のではなく、「やる」から「やる気」が出てくるんですね。これは書くことに限らず、何かを長く続けていくには必要な姿勢ではないかと思います。
深い話だね。夢枕獏さんの小説は、最近、まったく読んでいなかったけど、あらためて読んでみたいと思った。まずは、やはり、陰陽師シリーズがいいかな。
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