断片化 【rough story 82】

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記憶には、すべてのことが記録されているわけではない。
生まれてから今まで、断片的な記憶の切れ端を、
僕らは、ときどき、タンスの奥から引き出して、
それで、また元に戻すという作業をしている。
3歳以前のよく思い出す記憶なんて、ほんとに、ごくわずかだ。

パソコンのハードディスクは、記録の媒体だが、
これ、時系列で順序よく記録されているわけではない。
Aの次にGとかIの場所に記録されて、また削除されたりもするものだから、
使い込むほどデータの配置がばらばらになる。これを、断片化と呼ぶ。
それで、ときどき、ディスクの最適化という作業を行うと、
きれぎれになった記録が整理されて、アクセスのスピードが速くなる。

僕らの記憶は、遠くになるほど、断片化されている。
近くの記憶は、まだ時系列順で思い出すことが可能だ。
もし、記憶の最適化ができるとしたら、どうなるのか。
記憶にないこと、それを削除されたとしたら…
それは、人間でいられなくなるようで、ちょっと怖い。
断片化された記憶と記憶の間、そこにこそ、
僕が僕であることの証しがあるような気がするのだ。

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