ボクシングは、海外から日本に輸入された。
当初から、ボクシングと呼ばれていたのだろうか。
親父はよく「拳闘」という言葉を使っていた。
ボクサーは、「拳闘家」。ボクシングジムは、「道場」だ。
剣道や柔道のような昔からの武術に比べ、
ショービジネスの色合いが濃いボクシングは、
野卑なものとして蔑まれていたのかもしれない。
親父はよく「真剣勝負」とも言っていた。
だから、シナリオのあるプロレスを毛嫌いしていた。
勝負には、栄光と挫折、光と影がつきまとう。
勝ったときの賞賛は、平凡な人生では味わえない。
負けたときの非難も、また、凡庸な辛さではない。
その深い心の痛みは、当人でなければ、わからない。
あのとき、親父は、遠くを見るような眼差しをした。
その表情だけが息子の記憶に残っている。
コメント