「むかし、あったずもな」
そう語り出しが決まっている、岩手県遠野に伝わる昔話。
語り部たちのレパートリーは百を優に超えているという。
笑わせたり、泣かせたり、怖がらせたり、と実にいろいろ。
むかしは、テレビも映画もなかったから、
お話が最高のエンターティメントだったのだろう。
いろり端で、真剣な表情でお話を聞く子供たち。
話に引き込まれ、想像力の翼がひろがって、
やがて現実と幻想の境目がなくなってくる。
おしらさまだったり、かっぱだったり、
もう子供たちの瞳は、目の前にないものを見ている。
そのとき、子供たちの心は異次元にさらわれているのだ。
そこで、お話の最後に、彼らを呼び戻す呪文が必要になった。
語り部たちが唱える呪文は、静かだ。しかし力強い。
「どんどはれ」
コメント