広告業界、茶のみ話

広告論
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厚生年金のある会社で働け。
という親父の言葉に従って、
僕は、社会人になってから
長い間、会社という組織で働いてきた。
20代のなかば、一度だけ、
失業保険を3ヶ月間もらって遊んだ。
20代のおわり、一年間だけ、
友人といっしょに会社を興した。

東京の広告業界では
いくつもの会社を体験して
役職にもついてきたけれど
基本はサラリーマンだった。

でも、この業界においては、
サラリーマンという言葉は
あんまり馴染まないんだよね。
デザイナーやコピーライター、プランナー、
いわゆる広告クリエイターって人種は、
服装のスタイルもけっこう自由だし、
出社時間もフレキシブルで、
そのかわり、深夜まで働くのが当たり前。
仕事が好きだから残業の苦労を厭わない。
前近代的といもいえる職場環境。
時間の感覚が一般の企業とは
まったくずれているのが一般的なのだ。

それは、クリエイターの仕事内容を考えればわかる。

いいアイデアが一秒で生まれることもあれば、
あれこれ資料を見たりして、3日間かかることもある。
時間をかければ、いいわけではない。
作品の価値は、時間では計れないのだ。
お客様の評価によって、価値が決まる職業。
同じ年齢であっても、報酬だって大きく違う。

腕に覚えのあるクリエイターは、
最初はどこかに所属しても
だいたいフリーランスになる。
仕事がひとりではこなせなくなると、
数人の社員を雇用してプロダクションをつくる。
加えて経営の才覚があれば、
そのうち十人くらいの規模になる。
十人を超えるあたりから、
創業社長はクリエイターではいられず、
営業と経営に専念するようになりがちだ。

そしてクオリティを優先するか、
クオンティティを優先するか。
この辺の社員数が分岐点になるだろう。

十人の社員を養うためには、
それなりの純益が必要だ。
目の前に、クオリティはそれほど
要求されないが単純なワークで稼げる仕事。
かたや、クオリティが要求されるため、
労働時間が読めず、報酬は前者と同額。

経営者として、どちらを、選ぶか?

仕事の効率を優先すれば前者だが、
この甘い罠に乗っかると、
やがてデフレスパイラルが
大きな口をあけて待っている。
単純な作業は、誰でも置き換えが可能。
クライアントがそういう仕事を発注する場合、
選ぶ基準は対応力を前提とした価格だ。
対応力を高め、価格を下げるためには、
安い労働力を確保しなければならない。

仕事の効率は悪くても後者を選んだ場合、
クライアントが要求するクオリティを確保するため、
人材の教育に熱心にならざるを得ない。
スキルを磨くシステムがあれば、
社員はそれこそ労働時間を無視して、
頭を使ってアイデアに力を集中できる。
これは、やがて企業文化になるはずだ。
クオリティを追求する会社として、
認知されるようになれば、
そのような仕事が舞い込むはずだ。

ただ、最近のクライアントは、
支払う報酬はより安く、
クオリティはより高くを要求する。
どこの業界も大なり小なり似たような傾向にある。

どの辺で、質と価格のバランスをとるか?

そのように考えがちではある。けれど、
そのようにケチな了見で考え始めたら負けだ。
自分の想定する質のレベルを、
価格との秤にかけ始めると、
その時点からデフレスパイラルが始まる。

クオリティはつねに高く、志もつねに高く。

これを100人の規模で実現するためには、
よほど企業文化がしっかりしていないと無理だろう。

そんなあれこれを、お茶を飲みながら、
クリエイター仲間と、お話しました。

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