ユングという心理学者が好きだった。
学生時代の話。
フロイト先生は、人間の生きる衝動を
性的なものにまとめてしまう癖があって、
まだまだ若かった僕には含羞と抵抗があった。
ひとはスケベ心によってのみ生きるにあらず。
そこで出会ったのがユング先生の本。
人間をタイプ別に分類するのは、
血液型診断みたいでそれほど興味はなかった。
曼荼羅の研究とか、錬金術との関係とか、
グレイトマザーとか、神話の世界の分析とか、
一歩間違えれば、神秘学領域の本がおもしろい。
我々が生きている日常の世界とは異なる、
不思議な異次元の世界がこの世にはあるのだよ。
それは、当時の言葉で精神分裂症の症例研究から、
さまざまな推論をして、その妄想や異言なんかを
科学的に判断しよう、とユングは悪戦苦闘する。
人間には、死と再生のものがたりが必要なのだ。
不思議な世界があるらしい、ということに、
特に、日本人は、古くから気づいていたと思う。
神隠しとか、狐憑きとか、能や狂言でも、
お化けや霊が、近所のおじさんおばさんのように登場する。
西洋人は、そういう不思議を認めようとしないから、
ほらね、こんなに精神の病を持つ人がたくさん生まれるんだ。
ユング先生の戦いは、西洋的なキリスト教的な考え方と
東洋的な考え方のぶつかりあいでもあった。
今更ながら、最近、ユングが気になっている。
人間の全体性を取り戻す営みを大切にしたユングは、
いま、この時代に生きてたら、どんな言葉を吐くだろう。
ユング先生が発見した集合的無意識、曼荼羅のようにま~るい円が、
いま、閉じられずに、その切れ目から、いろいろなものが漏れ出している。
そんな風に感じませんか、ユング先生。
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