ちょっと前から気になっていたんですが、奇跡のりんご農家としてTVでも度々取り上げられている木村秋則さん。NHKで放映されたときは、見過ごしてしまっていて、それでも、リンゴを無農薬で栽培するなんて、すてきな事業を成し遂げたんだな、くらいに思っていました。それから書店で、ムツゴローのような風貌を観て、いくつかの本が出ていることも知り、どうせなら、本人が書いたモノを読んだ方がいいよな、くらいのノリで気づいたらアマゾンをポチッとしていました。
いつか読もうと思っていて、積んであったのですが、今朝、読み始めたら、するすると読めてしまって、先ほど読了しました。
リンゴの無農薬栽培を成功させるまでの道のりは並大抵のものではなく、何年間も無収入で村八分に近い状態になり、保護者参観のときの娘の作文や、その後、自殺未遂まで自分を追い込んでしまっていくところは、凄まじく、また感動的な実話でありました。この本では、栽培の技術的なことには深く、触れられていません。それよりも、もうひとつの主題があって、そちらのほうがむしろメインであろうと思います。
それは、龍との遭遇、UFOや宇宙人による拉致といった、トンデモ本のような不思議体験を語ることです。著者はまえがきの最後に「本書は、人がいま認識している現実、その2倍はあるはずの認識できていない真実、それを読者とともに考察するために、誤解されるのを覚悟のうえで書いたものであります。」と記しています。さらに第1章の対向ページには「わたしは霊感とやらがあるわけでもなく、スピリチュアルに興味があるわけでもありません。」という書き出しで始まる、まえがきのダメだしがあります。
こういう不思議体験に対して、読者はふたつの極端な反応を示すことでしょう。ひとつは、非科学的として拒否する反応、もうひとつは神秘的な魅力に無条件に心酔する反応。しかし、もうひとつあってもいいと思うのですね。それは、不思議を事実として受け止め、先入観なく考察する姿勢。不思議体験のひとつやふたつは誰にでもあるわけで、それを迷妄の世界から研究の対象へ持ち込もうとしたのが精神医学者のカール・グスタフ・ユングでした。彼の言説にも賛否両論あるでしょうが、僕はたいへん大きな影響を受けました。数々の不思議現象を事実として受け止め、理知的に分析しようとした最初の人だと思います。
話が横道に逸れました。失礼。本に戻します。僕は、リンゴの無農薬栽培という実績を持つ人が、あえて誤解される領域に踏み込んで発言したことがすばらしいと思います。木村秋則さんは、いま、何をメッセージしたいのか。眉つばものと思われそうな不思議体験を語ることによって、何を伝えたいのか。これは僕の憶測ですが、おそらく普通に無農薬農法の啓蒙をするだけでは、もはや時間が足りなくなっていると感じているのでしょう。もっともっと多くの人に、地球の危機的状況に対する認識を深めてほしい。それは、頭から理解する理屈ではなくて、おそらく身体でダイレクトに感じる認識である、と。骨の髄まで、農薬と化学肥料づけになっている現代人は、まず、その科学至上主義に対する迷妄から解き放たれる必要があるのではないでしょうか。そして、その次のアクションを喚起すること。エコロジカルという言葉が一般化してきてはいるものの、まだまだ足りない。本書の最終章タイトル「まだ足りない」は著者自身に向けた記述ですが、読者に対する最大のメッセージであるように感じました。
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