プロのカメラマンと呼ばれている人たちは、いま、けっこう厳しい状況のようです。結婚式や記念写真を撮影するカメラマンはそれなりに安定した需要があるのでしょうが、いわゆる広告の世界にいるカメラマンたちは、僕も同じ業界にいるので、その厳しさは実感としてわかります。
いろいろな要因があるのですが、まず、この景気ですから、クライアントは広告制作費の予算削減を考えています。全体のパイが小さくなっています。そして、写真ということに絞って考えると、カメラのデジタル化の波がさまざまな面で影響を与えていると思います。
かつて銀塩カメラの時代、撮影した現場では、被写体がどのように写っているか、ポラロイドで確認するにしろ、正確にはわかりません。アングルはファインダーで見えていますが、それ以外の露出やらピントやらフラッシュやらいろいろな要素があり、それらをカメラマンは頭の中で瞬時に判断してシャッターを押します。フィルムが現像され、または紙焼きされてから、はじめてその写真を見ることができる。上がってきて、それが予想を超える出来だったときは、感動しますよね。時差のあるパフォーマンス。これは、まさに職人芸の領域です。ロケの現場では、もっとシビアな一回勝負で、天気やらモデルやら関わりが増えて、失敗は許されません。失敗しないのがプロのプロたる証。その責任も何もかも含めて、プロにゆだねている世界がありました。
ところが、デジタルの時代になると、撮影した次の瞬間に、その写真を確認することができます。ここのボケ具合が足りないから、もっと絞りを調節して、ややアンダー気味に質感を表現したほうがいいな、とか、その場その場で撮影の設定を変えていくことができます。失敗したら削除して、もっとシャッターを切ればいい。これは、我々アマチュアからすると、とっても便利。いい加減にあれこれ試行錯誤しながら撮影できるので、失敗が少なくなります。素人が銀塩カメラでリバーサルフィルムで撮影しようものなら、露出の甘さで失敗写真を量産するのですが、デジタルなら、そんな失敗はありません。露出の間違いがすぐにわかるのですから、設定を変えて撮り直せばいいだけです。
ふりかえれば、カメラの発展の歴史は、アマチュアとプロの差を縮めるベクトルを持っているように思います。マニュアルでピント合わせなんて無理、だからオートフォーカス。露出も、シャッタースピードも、カメラまかせで、それなりに、いい写真が撮れるようになりました。そしてデジタルカメラは、プロの領域だった時差をもなくしました。
それでも、プロの写真は、やはり、いい写真です。お金になる写真を撮るために、シャッターを切っているから、ノウハウの質と量が違います。技術ではなく、感性で勝負するカメラマンにとって、デジタル時代こそ、アマチュアに差をつけられるチャンスかも知れません。それと、プロは、やはり、失敗がありません。現場での臨機応変がきく、細かなところまで気配りができる。積み重ねたキャリアのノウハウがあるからこそ、仕事ぶりがプロフェッショナル。そんなプロ意識の高いカメラマンが、僕は好きです。最近、そんな人、少なくなったんですけどね。
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