06.サラリーマンの悲しい陰謀 1996


アメリカからの電子メールが届いていた。

彼は、我が社のビジネスパートナーである。

7月下旬から8月中旬まで訪日する、とその

メールには書かれていた。アメリカ人は、気

楽にロングバケーションをとるのである。ふ

むふむ、家族で来るのか。いい気なものだ。

それで、その滞在中にビジネスの話もしたい

という。望むところだ。メールと国際電話の

やりとりだけでは、意が通じない部分もある。

大事なプロジェクトの詰めを行なうには絶好

の機会だ。

私は、土日に「遊び」が入っていたので、その

日を避け、スケジュールの空いている日を知ら

せた。折りかえし、彼からOKの返事がきた。

ところが、ここでとんでもない事態が発生

した。うちのボスが彼に国際電話をかけ、当

社のある長野県に招待してしまったのだ。

「せっかく日本に来るんだから、長野県のリ

ゾートを堪能してもらおうじゃないか。ホテ

ルの手配もしておいたから、打ち合わせのほ

うはよろしく頼む」

げげっ、である。

土日にたっぷり遊ぼうと目論んでいたその日を、

こともあろうに社長はキープしてしまったのだ。

私は、慌てた。ボスが電子メールを使えな

いのをいいことに、彼に泣きを入れるメール

を内緒で送った。

彼は、気持ち良く了承してくれた。さすが、

アメリカ人である。オフの大切さを知ってい

るのである。感心、感心。

翌日、ボスが首をかしげてこう言う。

「おかしいなぁ、急に断ってきたんだが……」

「おかしいですね……」と相槌を打ちながら

内心ほくそ笑む私であった。

しかしボスは、それで引き下がるタマでは

なかった。国際電話で強引に彼を説得してし

まったのである。もとより彼には相手の好意

をむげに断る強い理由はないのだ。

次の日、私のメールボックスには、彼から

のお詫びメールが入っていた。

そして「再会が楽しみです」と返事を書い

ている悲しいサラリーマンの私がいた。

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