生意気 【rough story 95】

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振り返ると、赤面ものというのは数限りなく、
社会人になって数年は、とくに生意気ざかりだった。
最初の会社では石の上に三年という親父の言いつけを守って
おとなしくしていたのだが、それから、数社を渡り歩いた。
転職する度に、ギャラがどんどん上がっていった。
時代はバブルの前夜だ。調子に乗っていたのだ。

ある政治的な新聞広告の依頼を、信条が違うという理由で拒絶。
上司だった営業は、一瞬、顔をゆがめたが、すぐに諦めてくれた。
ある代理店のディレクターとは、意見の相違で大声の喧嘩になった。
上司が間に入ってくれたが、僕は数ヶ月、そこに出入り禁止となった。
ある会社では、労働争議の中心的メンバーとなった。
いまからは考えられないくらい短気な自分がそこにいた。

いろいろな場面で上司とぶつかったけれど、
なまけたい、とか、あそびたい、という理由はない。
ただ仕事に対して夢中で、誠実でありたい、と。
徹夜なんて、ぜんぜん、苦にはならなくて、
むしろ、マゾヒスティックな快感さえ覚えた。
なんだろう…あのころ、妙な熱に浮かされていた。

で、ふと、思った。
世間知らずで身勝手で甘ちゃんの僕が、
いま、僕の部下になったら、
僕は、どんな言葉を投げかけるだろう。

想像してみた。
でも、思い浮かばない。

生意気な新人は、僕の個性ではなく、
良くも悪くも、その時代の個性だったのではないか。
そんな、気の抜ける、つまらない事実に、
25年たって、気づいてしまったのだ、僕は。

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