ふるさと 【rough story 97】

川沿いに小さな山が幾重にもつらなり、
その山のなかに数軒ずつ、小さな集落が
ひっそりと点在している。
私たち家族が四年間暮らしたのは、
そういう集落のひとつで、
隣には明治生まれの老婆がひとり、
その隣には大正生まれの老婆が住んでいた。
私たちの家は、築100年を優に越える廃屋。
茅葺きの名残りがある梁の上に鉄板の屋根が葺かれ、
玄関から家に入ると、土間が8畳分くらい、
竈のあともちゃんと残っていた。
厠はもちろん汲み取り式で、
屋根裏には青大将が棲息し、
毎年、雀蜂の巣が軒先につくられた。
台所から見える柿の木に、
たくさんの野猿が群がったこともある。
庭と呼ぶには大きすぎる300坪くらいの畑。
縁側から外に出ると、その畑の向こう側は、
竹藪が生い茂る斜面となっており、眺望が抜群だった。
北アルプスの連峰がパノラマのように広がっていた。
標高はおそらく800メートルくらいだろうか。
小学生だった娘と息子は、この家から、
小さな林のなかの小道を抜けて、
通学バスが走る県道まで駆け下りていった。
この道を、我が家では「奥の細道」と命名した。
この土地は、冬は雪が多く、寒く、厳しかった。
それでも、星がきれいで、緑がまぶしく、四季折々、
多彩な表情を見せて、何度、その美しさに感動したことだろう。
私たちの田舎暮らしの記憶が、たっぷりと詰まった土地だ。

いま、成人した子供たちは、ときおり、ここを訪れるという。
あるときは、恋人をつれて、ここを訪れているという。
当時、暮らしていた家は朽ちてしまったが、
そこから見える山並みや空気、奥の細道は変わらない。
子供たちにとっては、ここが、大切なふるさと。
たとえ、これからどんな土地に移り住んでも、
子供たちの心の根っこには、いつも、
ふるさとの美しい風景が広がっていることだろう。

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