広告クリエイターが生き残る処方箋

 つい先日、10月26日、デザイン界の若き旗手として有名なアートディレクターが長野市にやってきた。彼の名前は、水野 学。グッドデザインカンパニーというデザイン会社の代表である。

 講演会の場所は、僕の事務所から徒歩5分のTOiGOというビル。長野県デザイン振興協会による「信州ブランドフォーラム」のゲストとして水野氏が招かれたのだ。昨年は、外資系のブランディングデザイン会社であるランドーアソシエイツでデザインマネージャーをやっている家田 律氏がゲストであった。家田氏は、僕の27年来の友人。出会ったときから、弁の立つデザイナーであったが、話術にますます磨きをかけて、有意義でおもしろい講演をしてくれた。

 実は、今年の講演者、水野氏とも僕は知り合いだった。7年程前、東京のある大手スポーツファッション系企業の仕事で顔を合わせたことがある。いっしょに仕事はできなかったのだが、いろいろと縁があり、事務所に寄ってくださいと誘われながら、なかなか出かけることができず、今日に至った。出会った当時、水野氏は、まだ3人くらいで事務所をやっていたと思うが、デザイナーでありながら、「絵」よりも「言葉」にこだわっていた。このデザイナーは見込みがあるな、と彼より年長のコピーライターである僕は思った。後に、ADC賞をとったり、数多くのメディアで取り上げられ、こんなに活躍することになろうとは! 

 当日、彼の講演は、作品紹介だけではなく、自らのデザインに対する考え方や方法論にまで及び、そのやさしい語り口が印象に残るとともに、内容自体もおもしろかった。アートディレクターの仕事を、医者に例えたり、スタッフみんなで1時間にアイデアを1人50本ずつ出させたりとか、僕のコピーライティングの方法論と同じ部分もあり、共感できる内容であった。さらに感心したのは、200人以上の聴衆を前にして、肩の力を抜いて話ができるということ。35歳という年齢を考えると、なかなかのものだ。東京の第一線でナショナルクライアントを相手に、コミュニケーションの「医者」としてビジネスをしてきたその自信が、内からあふれている感じがした。話しの「間」の取り方も、うまい。「若い人にお説教するような内容だったから、先輩方も多くいらっしゃるのに申し訳なかった」と講演後の立ち話で頭をかいていたが、彼は年齢を問わず誰にでも好感を与えるキャラクターだ。人格も、この数年間で、きっと、人知れず磨いてきたのだろう。NHKのプロフェッショナルの現場、またはトップランナーに出演できる日も、きっと近いと思う。応援するよ、水野くん。

 さて。広告業界における成功事例とも言うべき、ランドーアソシエイツとグッドデザインカンパニー。かたや世界に拠点を持つ外資系、かたや10人程度のブティック系と組織としては大きく異なるが、このふたつの会社には共通点がある。
 それは、デザインを単なるビジュアル表現ではなく、戦略的なツールとして位置付け、コンサルタントとしての立場から、デザインビジネスを展開している点だ。ランドーの家田氏もgdcの水野氏も、だから、同じ多摩美術大学を出ていながら、言葉を大切にしている。人を説得するための話術を持っている。デザインを専門にしながら、「言葉」を大切にするということは、広告表現の本質であるコミュニケーションを大切にしているということだ。

 広告の仕事には、つねに広告主=クライアントがいる。広告クリエイターは、まずクライアントに向き合って要望を理解し、市場の状況を踏まえて課題を見つけ出し、その解決策を提示する。そう、最終的な成果物は異なるが、経営コンサルタントやマーケッターの仕事と類似しているのだ。
 だが、企業の業績アップという同じゴールを目差していながら、広告クリエイターは、どちらかと言えば「虚業」の人と思われてきた。広告というイメージ戦略は、その経済効果を数値に換算して評価するのが難しい。ゆえに、報酬の根拠があいまいになっている。あるクリエイターにポスターを頼むと100万円、違うクリエイターなら10万円。それに加えて、芸術家肌、職人肌の人間が多い業界であるため、独特の胡散臭さがつきまとってきた。

 これからの広告業界でクリエイターが生き残っていくためには、まず「言葉」を磨くべきだ、というのが僕の持論。実際に僕が出会ってきた、巨匠と呼ばれる広告デザイナーたちはみんな言葉に対する感性が優れていた。
 ようするに広告制作とは、生活者に「言葉」を伝える仕事なのだ。それ以上でも、それ以下でも、ない。デザインだって、言葉の「見える化」だ。その言葉が、生活者の心にしっかり届けば、ダイレクトな消費行動になったり、ブランドイメージが向上したり、良い結果をクライアントにもたらすだろう。さらに、その効果をしっかり数値化できるようになれば、「実業」としての地位も得られるに違いない。WEB制作というのは、このような文脈で捉えれば、表現と効果の関係性をもっと明確に数値化できる可能性を持っている。(広告効果を数値化する試みは、すでにいろいろ行われているけれど、厳密な意味で「表現」と「売上」の関係を立証するのはまだ難しい。)

 クリエイターたちがコンサルタントの役割を担い、その役割に対する認識が世の中に広がっていけば、広告業界の未来は明るいものになる。インチキな経営コンサルタントが淘汰されてきたように、クリエイターもどんどん淘汰されていけばいい、と思う。

 最後に、若きクリエイター志望の諸君へ。言葉を使うのが苦手だから、デザイナーを選んだ諸君よ。安心したまえ。コンサルタントを必要としない、圧倒的に多数のクライアントが、君たち若い広告クリエイターの手腕をデフレ価格で待っているのだから…(苦笑)。



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